ゴルフGTIの歴史

1976年に登場したゴルフGTIは、その2年前にセンセーショナルなデビューを果たしたゴルフのスポーティバージョンとして開発された。わずか820kgという軽量なボディに、110psまで高められたハイパワーなエンジンを搭載し、最高速度は182km/hを記録。タイプI(初代ビートル)の後を受け、大衆のためのコンパクトカーとして作られたゴルフにとって、このゴルフGTIは想像もつかないような走りを実現。ポルシェやフェラーリなど流麗なクーペタイプのボディを持つスポーツカーとは全く違う、コンパクトなハッチバックボディのスポーティモデルゴルフGTIの圧倒的な高性能ぶりは、まさに“羊の皮をかぶった狼”という表現がふさわしいもの。そして、ゴルフGTIの登場は、ハッチバックボディにハイパワーなエンジンを搭載した“ホットハッチ”という、新しいカテゴリーを生み出した。もちろん、羊の皮をかぶったと言っても、ゴルフGTIは走行性能に合わせて、外観もそれ相応の変更が行われた。赤いモールディングに縁取られたラジエーターグリル、ブラックアウトされたVWのエンブレム、大型のフロントスポイラー、樹脂製の黒いオーバーフェンダー、リヤウインドーのマットブラックにペイントされたフレームなど、ゴルフの中で GTIが特別な存在であることを示すような変更が加えられた。こうした装備の数々は“GTIルック”と呼ばれ、GTIルックをまとったゴルフは羨望の眼差しを向けられた。残念ながらゴルフGTIルックの象徴でもあった赤いモールディングは第2世代のゴルフGTIまで採用され、その後はほかのゴルフと同じグリルが使われた。そして今回、復活した伝統の赤いモールディングライン。21世紀のゴルフGTIにかけるフォルクスワーゲンの意気込みが伝わってくる。

フォルクスワーゲンの“ワッペングリル”

フロントマスクの話題をもう一つ。30年近いゴルフGTIの歴史の中で初となる独自のフロントビュー。ゴルフGTIのフロントは他のゴルフのラジエーターグリルのU字型を大きく下に引き下げるような形で、バンパー、そしてフロントスポイラーまで広げ、そのエリアをブラックアウトして独自性を高めている。このゴルフGTIのフロントデザインを見て何かを思い出さないだろうか?実は、このU字型とボンネットのプレスラインを結んだラインは、タイプI(初代ビートル)を連想させるようなデザインである。大きめのVWのエンブレムが据えられたこのグリルは“ワッペングリル”と呼ばれ、今後のフォルクスワーゲンのデザインに順次踏襲されるのだとか。ゴルフGTIだけでなく、その他のゴルフをはじめトゥアレグやパサートもまた、ワッペングリルを意識しているのがわかるだろう。2000万台以上が生産されたベストセラー・タイプIの遺伝子が、21世紀になり形を変えて姿を表したワッペングリル。時代は流れても、変わることのないフォルクスワーゲンの車づくりへの情熱が流れ続けていることを、静かに物語っている。また、ゴルフGTIのローダウンしたシルエットに加え、デュアルエグゾーストパイプ、赤く塗装されたブレーキキャリパー、リヤのGTIロゴなど精悍でスポーティな印象が際立つ。内装もまたスポーティでステアリングホイール、メーターなどもゴルフGTI専用のものである。そしてシートに至っては初代ゴルフGTIを彷彿とさせるチェック柄を採用し、ヘッドレストにもGTIのロゴ入りの専用スポーツシートである。

ゴルフGTIの赤いモールデザインが帰ってきた

2004年に新型ゴルフが登場して以来、待つこと約1年。ついにスポーティバージョンのゴルフGTIがデビューした。最新のテクノロジーを惜しげもなくつぎ込み、外観は一目で他のグレードとの違いがわかるよう専用のデザインを採用。実は約30年にもわたるゴルフGTIの歴史の中で、専用のグリルがデザインされたのは今回が初めてのこと。専用のハニカムグリルや大型バンパー、フロントスポイラーなど、遠目にもその存在感をゴルフGTIだと言わんばかりにアピールしている。そして、大きく変更されたフロントマスクにアクセントを与えているのがグリルの下側に沿って入れられた赤いモールディングライン。初代ゴルフGTIに採用された、スポーティバージョンの証であるグリルの赤いモールディングラインが復活したのである。スポーティな車にとってフロントマスクのインパクトは非常に重要な意味を持つ。例えば高速道路走行中にバックミラーに迫り来る車を見つけたとき、それがポルシェやフェラーリだったら本能的に道を譲るだろう。しかし、その姿が見慣れたコンパクトカーなら道を譲らないかもしれない。ゴルフGTIが登場した1970年代、速度無制限区間のあるアウトバーンでは、最高速度による暗黙の序列があったと聞く。前を走る車に道を譲らせるためには、その性能を誇示するかのようなフロントマスクが必要でした。そんなアウトバーンにいきなり新参者として登場したのがゴルフGTI。前を走るスポーツカーを追い回したゴルフGTIのフロントグリルには、秘めたるパワーを示すための赤いモールディングがあった。そして、その赤いラインはいつしか“道を譲らせる”証となったのである。

Copyright © 2007 復活したゴルフ GTIの赤いモールディングライン